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宇都宮徹壱の「呑まずに観れるか」


 英語で「ビア」、フランス語で「ビエール」、イタリア語で「ビルラ」、トルコ語で「ビラ」、北欧全般は「エレット」。だがフィンランドでは「オルット」、スラブ語圏では「ピーボ」、中国では「ピジュ」、韓国では「メクチュ」……。
 これまで、欧州の様々な辺境地にてフットボールの取材を続けていいながら、およそ外国語というものがさっぱりダメなこの私。しかしながら、取材地が決まると2つだけ必ず覚える言葉がある。それはすなわち「ありがとう」と「ビール」である。  今年の6月にポルトガルで開催されたEURO2004でも、私が当地で最初に覚えた言葉が「セルベージャ」であった。バールに入って、最初に「セルベーサ」とスペイン語で頼んだら「いや、セルベージャだ」と訂正されて、すぐに脳裏にインプットされた。ちなみに、当地で最もお世話になったセルベージャは「サグレス」というブランド。このビール会社は、ポルトガル代表をサポートしているナンバーワン・ブランドである。
 日本のキリンビールを例に出すまでもなく、ナショナルチームとビール会社というものは、ある種の親和性があるようだ。同様の事例を私は、クロアチアでもロシアでも見ている。それはすなわち、フットボール観戦にビールが不可欠であることの証左であろう。  いずれにせよ、私のみならず多くのフットボールファンが、今大会で一度はサグレスでのどを潤したはずだ。今年の同社の売り上げは、飛び抜けて高かったと思われる。
 さて、今回のEURO開催期間中、私は様々な国のサポーターたちをカメラに収めた。そうした中で、片手に国旗、片手にビールという被写体の何と多かったことか。  彼らは、試合前にビールを大いに飲み干しながら、存分にゲームを楽しみ、そして90分の間に歓喜と悲嘆の声を挙げてから、またビールで乾杯という生活を続けていた。彼らにとってフットボールとビールは、間違いなく不可分な関係にある。だが無粋にも、スタジアム内では何とも不味いノンアルコールのビールしか販売していなかった(しかも2ユーロもした!)。スタジアム周辺で、どこからともなく現れるモグリのビール売りがいなかったら、随分と士気をそがれていたことだろう。
 ひとりの酒好きフットボールファンとして、ここであらためて主張したい。
 旨いビールと素晴らしいゲームがあって、初めて上質なフットボールは完結する。そもそも、ほとんどの観戦者はしこたまビールを飲んでからスタンドに腰を落ち着けるわけで、そこでアルコール抜きのビールを供するというのは、明らかな偽善、もしくはアリバイ作りでしかないのではないか。もし、近い将来にスタジアムで、警察のネズミ捕りよろしく「アルコール・チェック」なんてものが実施された日には、それはすなわち観戦文化の「脳死状態」であり、その可能性を私たちは大いに危惧しなければなるまい。
 幸いにして、今回のEUROで私たちは、フットボールとビールを心から満喫することができた。当地で撮影したサポーターたちの「雄姿」を紹介しながら、あらためてフットボールとビールの親和性について考察してみたい。

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京都出身。
東京芸術大学大学院美術研究科修了。
TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。
旧共産圏のうらぶれたスタジアムと、現地で飲む酒をこよなく愛する。現在は「季刊サッカー批評」「スポーツナビ」を中心にフリーのジャーナリストとして活躍中。
 主な著書
■『幻のサッカー王国 スタジアムから見た解体国家ユーゴスラヴィア』勁草書房(1998年)
■『サポーター新世紀 ナショナリズムと帰属意識』勁草書房(1999年)
■『ディナモ・フットボール―国家権力とロシア・東欧のサッカー』みすず書房 (2002年)



EURO2004放映店特集
徹壱の部屋 宇都宮徹壱オフィシャルWEBサイト
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6月23日@ブラガ
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6月14日@リスボン
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